― 販売企画担当者が今、知っておくべき視点 ―

まず前提として、いまのビューティ市場では「商品が良い」だけでは選ばれません。
成分、価格、機能性――どれも一定水準を超え、差別化が難しくなっているからです。

その中で、ブランド価値を大きく左右しているのが「体験設計(カスタマーエクスペリエンス)」です。

私は25年以上、百貨店・ブランド立ち上げ・小売支援に関わってきましたが、売れ続けるブランドには共通して「体験の設計思想」があります。


なぜ今「体験設計」が重要なのか(背景)

美容ブランドを取り巻く環境変化

  • 商品情報は検索すれば誰でも手に入る
  • SNSで使用感・評価が即座に拡散される
  • 店舗・EC・SNSが分断されやすい

こうした環境では、購入前から購入後までの“一連の体験”そのものが、ブランド評価になります。

一つポイントになるのは、お客様は「商品」ではなく「その商品を使う自分の未来」を買っているという点です。


販売企画担当者が直面する課題

よくある3つの悩み

販売企画の現場では、こんな声をよく聞きます。

  • 新商品を出してもリピートにつながらない
  • 店舗とECでメッセージがバラバラ
  • 価格競争に巻き込まれてしまう

これらの多くは、体験が設計されていないことが原因です。

たとえば、
・売場では丁寧に説明
・ECではスペックのみ
・購入後のフォローなし

この状態では、ブランドの「記憶」が残りません。


「体験設計」とは何か?(定義)

体験設計=感情のストーリーを描くこと

体験設計とは、顧客接点ごとに「どんな感情を持ってほしいか」を設計することです。

具体的には、

  1. 知る(広告・SNS・口コミ)
  2. 試す(売場・サンプル・レビュー)
  3. 買う(接客・UI・価格理解)
  4. 使う(使用感・結果)
  5. 語る(SNS・家族・友人)

この流れ全体を「一つの物語」として設計します。

私はよく、体験設計は“脚本のある舞台”だと例えています。
役者(商品)だけ良くても、脚本がなければ感動は生まれません。


ブランド価値を高める具体策

① 販売視点ではなく「生活者視点」で考える

販売企画では、どうしても「売りたい理由」から考えがちです。

しかし体験設計では、「お客様が困っている瞬間」から逆算します。

例:

  • 朝のメイク時間を短縮したい
  • 肌悩みを人に知られずケアしたい

ここに寄り添った体験が、共感を生みます。


② 接点ごとに役割を明確にする

  • SNS:共感と期待をつくる
  • 店舗:納得と安心を与える
  • EC:迷わず選べる導線
  • 購入後:使い続けたくなる仕掛け

すべてで同じ説明をする必要はありません。
役割分担こそが、体験の質を高めます。


③「記憶に残るワンシーン」を仕込む

体験すべてを完璧にする必要はありません。

  • 初回購入時の一言メッセージ
  • 使い始め3日目のフォローメール
  • 店頭でのちょっとした気遣い

こうした一瞬の体験が、ブランドの印象を決定づけます。


実践ポイント(明日からできること)

販売企画担当者向けチェックリスト

  • この商品を使った後、どんな気持ちになってほしいか
  • 初回接点で伝えるメッセージは一つに絞られているか
  • 店舗・EC・SNSで体験が分断されていないか

この3点を見直すだけでも、体験設計は大きく改善します。


まとめ:体験設計はブランドの「資産」です

価格や成分は、いずれ真似されます。
しかし、体験は簡単にコピーできません。

だからこそ、体験設計は短期施策ではなく、ブランド価値を積み上げる長期資産だと私は考えています。

皆さんのブランドが、「また使いたい」「人に勧めたい」と思われる存在になるために、まずは体験の設計図を描くことから始めてみてください。