化粧品市場は、今も伸びているのでしょうか。それとも、節約志向によって厳しくなっているのでしょうか。
私がこの質問を経営者の方から受けたとき、いつもお答えしていることがあります。答えは「どちらも起きている」です。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、2026年下半期の市場を正しく読むうえで、まずこの前提を共有させてください。
1分でわかるポイント

| 変化 | 一言でいうと |
|---|---|
| ① 高付加価値化 | 「安いから売れる」時代の終わり |
| ② インバウンド | ボーナス収入ではなく設計対象 |
| ③ チャネル | 店舗かECかではなく「店舗×EC」 |
| ④ 競争環境 | 国内完結の時代の終わり |
| ⑤ 顧客関係 | 売上よりLTV・リピート率 |
背景|市場は拡大している。ただし中身が変わってきている

矢野経済研究所が2025年11月に公表した調査によると、2024年度の国内化粧品市場規模(メーカー出荷金額ベース)は前年度比4.1%増の2兆5,800億円、2025年度は同2.7%増の2兆6,500億円になると予測されています。外出機会の回復、プレミアム製品の人気、インバウンド需要の回復が、この成長を下支えしてきました。
カテゴリー別に見ると、スキンケアが構成比46.3%(1兆1,950億円)と最大で、次いでメイクアップが19.7%(5,070億円)、ヘアケアが19.5%(5,030億円)。2023年度にはメイクアップがヘアケアを逆転しており、外出機会の回復がメイクアップ需要を押し上げた形跡がうかがえます。
数字だけを見れば、悪くない話です。しかし私は、この数字だけを根拠に「化粧品市場は好調」と判断するのは、少し危ういと考えています。
課題|市場は「拡大」ではなく「選別」の段階に入っている

生活者の側では、物価上昇による節約志向も同時に強まっています。つまり実態は、
「化粧品を買わなくなった」
というより、
「何にお金を使うかを、以前より厳しく選ぶようになった」
と捉えるほうが近いはずです。この「選別」の視点を持たずに施策を打つと、市場全体の成長率だけを見て安心し、自社の実態を見誤ることになります。
具体策|2026年下半期に押さえるべき5つの変化
変化① 「安い商品」より「価格に理由のある商品」が強くなる
単純な値上げには、消費者はついてきません。一方で、エイジングケア、高機能スキンケア、ダーマコスメ、パーソナルヘアケア、フレグランス、美容機器との組み合わせなど、購入する理由が明確な商品は、高価格帯でも市場を獲得できます。
矢野経済研究所も、2025年版の調査で「スキニフィケーション(頭皮や体をスキンケア発想でケアする流れ)」「コスメシューティカル(化粧品と医薬部外品の中間領域)」「クリーンビューティー」をキーワードとして挙げています。加えて、健康寿命への関心の高まりから、ロンジェビティ(予防美容)という切り口も業界内で広がりを見せています。
これからは「3,000円だから売れる」「1万円だから売れない」という単純な価格の話ではありません。1万円を払う理由を、ブランド側が説明できるか。ここが分かれ目になります。
変化② インバウンドを「ボーナス売上」と考えない
JNTOによると、2026年7月の訪日外客数は約344万人で、7月として過去最高を記録しました。一方、8月は約310万人と、前年同月比9.6%減となっています。
この数字が示しているのは、インバウンドが大きな市場である一方、月や国・地域によって変動もあるという事実です。「外国人が増えれば店頭で自然に売れる」という発想ではなく、訪日前→日本滞在中→帰国後まで見通した設計が必要だと、私は考えています。
なお、経済産業省は2025年12月に「化粧品産業競争力強化検討会」を設置し、2033年までに輸出額と現地製販額の合計を2兆円規模まで引き上げる目標を掲げて議論を進めています。インバウンドは、「一度日本で買ってもらう機会」から、海外顧客を獲得する入口として捉え直すべき局面に来ています。
変化③ 店舗かECか、ではなく「店舗×EC」になる
経済産業省によると、日本国内のBtoC-EC市場は2024年時点で26兆1,225億円まで拡大しました。このうち物販系分野は15兆2,194億円で、EC化率(物販系分野における商取引全体に占める割合)は9.78%まで上昇しています。
しかし化粧品は、色、香り、テクスチャー、肌との相性、接客といった、リアルだからこそ伝えられる価値が非常に大きい商品です。だからこそ2026年以降は、
SNSで知る → 口コミを見る → 店舗で試す → ECで購入する → LINEやアプリで継続購入する
という顧客行動を前提に設計する必要があります。オンラインとオフラインを融合するOMO(Online Merges with Offline)の発想が、これまで以上に重要になります。
変化④ 日本ブランドは国内だけを見ていられない
日本市場には、韓国をはじめとする海外ブランドが次々と参入しています。一方で、日本の化粧品輸出は苦戦が続いてきました。財務省貿易統計によると、輸出額は2021年の約7,972億円をピークに減少が続き、2024年には約5,264億円まで落ち込みましたが、2025年は約5,800億円(速報値)へと持ち直しています。輸出の約半分を中国向けが占める構造は、依然として大きな課題です。
経済産業省が2025年12月に設置した「化粧品産業競争力強化検討会」も、こうした状況を踏まえたものです。国内市場だけで事業計画を立てるのではなく、越境ECや海外SNS、訪日客との接点まで含めた市場設計が、これからは欠かせません。
変化⑤ 売上より「顧客との関係」が競争力になる
広告費を使って新規顧客を獲得する時代から、獲得した顧客とどれだけ長く関係を築けるかが問われる時代に変わっています。化粧品は、購入→使用→効果実感→リピート→別カテゴリー購入という長期的な関係を作りやすい商材です。だからこそ、見るべきKPIも単月売上だけではありません。
経営者が確認したい5つの指標
- 新規顧客数
- リピート率
- 顧客単価
- LTV(顧客生涯価値)
- 商品カテゴリー間の回遊率
この5つを見るだけでも、事業の健康状態はかなり見えてきます。
実践ポイント|2026年下半期に経営者がやるべきこと

私は、次の5点を一度棚卸しすることをおすすめしています。
- 売上ではなく「どの商品が伸びているか」を見る:市場全体が伸びていても、自社の対象カテゴリーが伸びているとは限りません。商品別・カテゴリー別・価格帯別に確認します。
- 価格ではなく「選ばれる理由」を整理する:機能、成分、ストーリー、接客、口コミ、体験など、自社が選ばれる理由を明確にします。
- ECと店舗を別々に考えない:SNS、店舗、EC、CRMまで、一人の顧客行動として設計します。
- 新規獲得だけでなく既存顧客を見る:広告費を増やす前に、リピート率やLTVに改善余地がないか確認します。
- 日本市場だけを市場と考えない:訪日客、越境EC、海外SNSなど、小さくても海外との接点を作り始めます。
まとめ|2026年の化粧品市場は「誰でも伸びる市場」ではない

2025年度の国内化粧品市場は2兆6,500億円まで拡大すると予測され、矢野経済研究所は2029年度には2兆7,500億円規模になると見込んでいます。市場そのものは、決して悲観する状況ではありません。
ただし、昔のように「市場が伸びれば自社も伸びる」という構造ではなくなっています。高付加価値化、インバウンド、海外ブランド、EC、リアル店舗、SNS、CRM。これらが複雑につながっている今だからこそ、新しい施策を次々と増やすことよりも、商品・顧客・売場・EC・SNS・CRMを一度つなげて、自社は「誰に、どんな価値を提供する会社なのか」を整理することが重要だと、私は考えています。
市場が変化するときほど、施策より先に事業全体を見る。それが、これからの化粧品ビジネスで問われる姿勢です。

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