──短期最適か、長期価値か。化粧品業界に学ぶブランド経営の本質
◆プロ経営者と創業家経営者では「ブランドの捉え方」が根本的に違う
ブランド担当者にとって、経営者がどのようにブランドを見ているかは、日々の施策判断にも直結する重要ポイントです。実は、プロ経営者(外部から招聘される経営者) と 創業家経営者 では、ブランドの見方が大きく異なります。
◆プロ経営者:短期の成果を重視する“ブランドの即効性”

プロ経営者は株主・市場からの期待を背負い、短期間での業績改善・ブランド価値の向上を求められます。
- マスマーケティングによる急速なブランド拡大
- レバレッジの効く打ち手(インバウンド・広告投資)
- 即効性のある施策での売上改善
- 既存構造の見直し、効率化
これは、外部から見れば「合理的」ですが、長期でブランドを育ててきた販売店やステークホルダーとの関係を犠牲にしやすいというリスクがあります。
●資生堂の例
資生堂は、かつて過去最大の赤字からの再建のため、プロ経営者が舵を取りました。
その過程で、長年ブランドを支えてきた小規模な販売店との取引縮小を進め、インバウンド需要とマスマーケティングへ大幅にシフト。
短期的には売上回復に貢献しましたが、“日本国内で熟成されてきたブランド価値”を軽視した結果、中長期のブランド毀損という副作用も生んだと言われています。
◆創業家経営者:長期視点で“ブランドの伝統と信頼”を守る

一方、創業家経営者は 世代を超えてブランドを守り育てる立場 です。
- 長期的な信頼の積み上げを重視
- 既存パートナーとの関係性を優先
- ブランドが持つ“文化”や“哲学”の継承
- 一貫した顧客体験の維持
短期の利益よりも、ブランドが100年続くための判断をするのが特徴です。
●コーセーの例
コーセーは創業家経営の代表例。
経営効率だけを理由に小さな販売店を切り捨てず、ブランドを共につくってきたパートナーとして現在も重視しています。
ブランドを熟成させる「販売現場」という土壌を守る姿勢こそ、長期的なブランド価値を積み上げる創業家経営の強みです。
◆他業界でも同じ構造が見える

美容業界以外でも、以下のような対比が存在します。
- トヨタ(創業家経営)
長期視点での技術投資、ブランド哲学の継承 - P&G(プロ経営者)
グローバル視点で短期~中期のブランド価値改善を重視
●SK-IIのケース
P&Gが手がけるSK-IIは、インバウンド人気でブランドが一時“消耗”しました。
しかし、プロ経営者らしいブランド再設計が行われ、新しい顧客層へのマーケティング(ミレニアル、Z世代)に成功し、ブランド価値を再構築しつつある好例です。
◆化粧品ブランド担当者が知るべき“ブランドの本質”

この記事の結論はひとつ。
ブランドとは、長い時間をかけて積み上がる「信頼資産」である。
インバウンドで売れるのは、“突如人気が出たから”ではなく、国内市場で何十年も育てられた信頼が、海外で花開いたにすぎないからです。
◆まとめ:あなたのブランドは「短期」と「長期」のどちらに偏っていないか?
- プロ経営者は “短期成果 × ブランドの即効性”
- 創業家経営者は “長期価値 × ブランドの信頼資産”
- ブランド成功には、この両輪が必要
- インバウンド依存だけでは長期ブランドは崩れる
- 販売店・顧客との関係性こそ、ブランドの土台
ブランド担当者が見るべきは、「売上」だけでなく“信頼の積み上げ”そのもの。
短期と長期をどうバランスさせるかが、これからのブランド戦略の核心です。


